第27号編集会議 東京物語

愛の空間を生み出すために

2013 9/7 茅場町の喫茶店にて


★ 編集会議出席者

・那=那智タケシ(ライター・無我研代表)

・土=土橋和子(ライター)

・み=みきを(デザイナー・女)

・テ=ティモ(アルバイト)

・エ=エリナ(占い師・アーティスト)

・ハ=ハニー(医療関係)


●観念はもういらない
ハ 大震災の後に、変なスピリチュアルにはまってしまって、それで逆に混乱していた時に那智さんの本やメルマガに出会ったんです。
土 変なスピリチュアルって?
ハ 今って現世利益というか、これすれば儲かるとか、変な感じのが多くて。地震とかで不安になったこの時期にそういうのが増えてしまった。でも、そういうのはよくないんじゃないかっていう那智さんとか、少数派の人たちに共感するなと思って参加させてもらいました。
那 ああいう世界って外から見ているならともかく、中に入るとついていけないノリになっていたりする。「幸せですか?」「幸せです」みたいな新興宗教的ノリになっている。そのノリについていけないとか、そういう感じ?
ハ そうです。
土 大きな団体なんですか?
ハ すごい大きな団体。そこで元手もかからずに莫大なお金を取っていて。
エ 私も騙されかけたことあるんですけど。全国一斉にヒーリングをする。日本列島全土にドラゴンをつけてあげるって。
一同 (笑)
那 そこまでいくと面白いけど。
ハ すげー嘘くさい(笑)
エ それをするには、体毛を剃らなきゃいけないって。だから剃るように言われた。
ハ 何それ?(笑)
エ ドラゴンをつけるとあらゆる願いが叶って、世界一になるって。
ハ 世界一? おいくらだったんですか?
エ 無料です。
一同 (笑)
ハ それはちょっと面白い。
那 面白いキャラがいっぱいいるね。
土 みきをさんは、そういうセミナーに行ったことがあるのですか?
み 私は那智さんと昔から友達で、宗教のこととかいろいろ言われていて。
那 彼女はそっち系はあまりこだわりないから。10年ちょい前初めて会った時に話したのは、井の頭公演で一人で座禅を組んでいるっていうのね。頭の中にザーっていうのノイズがあって、それを消したいって。テレビの砂嵐見たいのがあるから、朝、1人で瞑想してるって。当時は金髪の女の子で、それが面白くて、それ以来の付き合いです。
ハ メルマガに前に書いてあった?
那 そう、ネタにもしたけど、彼女が22、3歳だったと思うけど、当時モーニング娘とか流行っていて、モームスにでもいそうな金髪の小さな女の子が、朝、必死に座禅組んで、木の下で瞑想してると思うと、何か胸打たれるものがあるじゃない?
土 そこがポイントみたいな?(笑)
那 マジックマッシュルーム食べた、とかね。
ハ 合法だった?
那 知らないけど。でも、彼女は今のスピリチュアル系のラインの人とは違いますね。
エ スピリチュアルな世界って90%偽物の人が多いです。
ハ もっと、99%って言いたい気もする。
那 セミナーでお金払って、技術を教えてもらって、というと整体とか、リアルな効果があればわかるけど。でも、ああいう世界もビジネスだからね。仕方ない部分もある。
土 でも、そういうことをやっている限りは、ちょっとくらい効果があったりするのでしょ?
那 なんかあるだろうし、ゼロではないと思う。ただ、その場では癒されても、人生全体として捉えるとマイナスになる場合の方が多いかもしれないね。
エ スピリチュアリズムにはいいものもあると思います。真面目にやっている人もいます。
ハ でも、真面目にやっている人はすごく少ないなと思う。
エ だいたいお金に走るから。
那 顔見ればわかるけど。本物はあんまりアピールしない。
ハ 形のないものにそこまで大金を、という気がするんです。
テ 数万円とかお金を取る。万単位。
エ 最近は、エドガー・ケイシーという人の本を読んで、あの人は、いいのかなと思った。
土 ある意味、歴史上で一定の評価のある人はね、何かあるでしょうね。
那 最近、疲れてしまって。こういう批判にエネルギーを使っていいのかなって。そういうのをやりすぎると怨念みたいのもあるし、疲れてしまう。表面とは違って、観念に汚染されている分、逆にピュアじゃない。たまにいい人がいてもね、98%は観念の世界。だからもう何もいらないというか、ぼくは何もない方が絶対、人として強いとわかっているから。麻雀していても、考えたり、観念持っているとだめ。全部落として、触れるというか。
ハ 妄想するとだめということですか?
那 観念すべてがいらいなということです。花ってそれだけで完璧でしょ? 花に瞑想とかいらない。咲いて、散って、終わり。それが美しい。余分なものを落とす手段としての瞑想ならわかるけど、付け加えちゃだめだよ。現実っていうものを壊すという意味で、最初のワンアクションとして瞑想というものはあるのかもしれないけれど、基本は落とす方向じゃないと、不健全なものになってしまう。そういう感じがすごいします。
土 いろいろくっつけると売れるなと思っちゃってるんでしょうね。基本的にね、自然の摂理として、そういう風になるということはあるので、それに多少気づいて、それにいろいろ付け加えると売れるな、みたいな感じで?
ハ みんなね、不況とか、こういうご時勢だから何かにすがりたいのかなって。那智さんがやっている無我研の映画とかサブカルとか、麻雀とか、音楽とか多岐に渡っているじゃないですか? そういうので心を豊かにしていく活動と言うのは、何かいいなと思って。変なスピリチュアルとか流行っているけれど、逆に芸術とかの方が根源的な、大切なものに触れるような。スピとか関係ないように見えて、那智さんのやっているようなことの方が人間の本質を豊かにするというか。逆にスピ系ばかりやっているとおかしくなるような。


●「東京物語」のすごさ
那 あのね、愛ある表現が何かという時に、原節子という女優がいるけれど、「東京物語」で原節子が「私、本当はずるいんです」という台詞を言う時があるんです。戦争で帰って来なかった旦那のことをね、忘れている時もあるって。それに対して、義理の父役の笠智衆がね「やっぱりあんたはいい人じゃ」ってうなずくのね。その瞬間にね、みんな泣くの。
み ああ・・・
那 通じ合っている、日本的なよさかもしれないけれど、愛の関係がある。空間があるの。小津先生という人はすごくて、箸の上げ下げまでミリ単位で指示した。つまり、調和的な姿勢というか、つながり合い? グラスの位置もここじゃなくてここ(目の前のグラスを少し動かす)。本当に厳しいの。だからああいう画面になった。ある空間が生まれた。
み うん。
那 笠智衆がね、ちょっと演じちゃった時があったんだって。そしたら怒ってね、おれの言う通りやれって。小津先生はね、笠智衆の朴訥な人間性とか、良さを知っていたのね。それを生かす演出をしていた。だから余計なものを付け加えた瞬間、怒ったの。原節子もそういう人だったの。いい人だったのね。そういう俳優を選んで、絶妙な調和的関係の中で撮影している。そこにある愛というのは現実世界では、ミリ単位の厳しさがあって、初めて現れるの。
「東京物語」の最後でね、笠智衆の奥さんがなくなって、血のつながっている家族がみんな遺産のこととか、自分の時間のこととか気にしている中で、義理の娘である原節子が「私、本当はずるいんです」と言う。そこに愛の関係がある。それは表現として最上のものなんです。誰よりも美しい、と感じさせる。国境を越えて、世界でナンバーワンの映画に選ばれた(※注)というのもわかる。生きた人間同士のかかわりの中で、観念ではなくて、メッセージでもなくて、ちょっとした仕草とか、笑みとか、肉体でもって、愛を表現してる。それが最上なんです。原節子に瞑想とか必要あるのかっていったらないわけでね。
土 ないない。
那 映画的演出もあるとしても、仕草や表情、笑い方、拝みたくなるくらい神々しいものがある。
み わかる。
那 慈悲に満ちた笑みというかね、あれは地から出てきたもので、かなわないよね。外見がいいとかそういうことではなくて。精神性があの顔にすべて現れている。そういう人こそ美しいと言えるような社会にならないと、何かが狂っていく。指針としてね。そういう危機感というのがあって。
だからスピリチュアルというのは嫌いではないし、それは無形のエネルギーをどう利用するかという話。それは誰にでもあるもので、それを悪用しなければいい。
土 スピリチュアルという言葉の定義がずれてきたというか。
エ 宗教が説かなかった死後の世界の説明に活用されているというか。

※2012年度の英国放送協会発行の「サイト・アンド・サウンド」で世界の映画監督358人が投票で決める最も優れた映画に小津安二郎監督の「東京物語」が選ばれた。批評家ら846人の投票でも3位だった。2位はキューブリックの「2001年宇宙の旅」とO.ウェルズの「市民ケーン」。4位はフェリーニの「8 1/2」というそうそうたる顔ぶれでの1位である。この投票は10年に1度行われている。


●みんな、うるおいが欲しい
ハ 現代スピもいい方にいってくれればよかったのに、拝金主義みたいな方にいっちゃったからああぁ、みたいな。
エ こうやれば開運するとか。パワースポットとかでも怪しいところがある。
ハ 今、こうすればっていうのがめちゃくちゃ流行っている。
エ これを待ち受けにすればいいとか。
み 私もどうしようもない時って厄除けとか行きます。
那 すごい祈ってる時あるよね? まだやってるよって(笑)
土 田舎に帰ってもね、子供のために祈ったりするのはよくやっている。
那 一番いいのは、無心で、調和するようにやればいい。落とす方が一番いい。それが全体につながる。落としてつながったなと思うと一番いい。
土 田舎の人は4歳のうちの子に「いい子になりますように」ってやるんだよって言う。自分がいい子になりますようにってね。
那 そういうのが本当のスピリチュアルなのかもね。自分が大きなものに包まれているとか、お任せするとか。そういうエーテルがなくなっているから、みんな欲しいの。ぎすぎすしてるでしょ? ぶつかり合って。うるおいが欲しいわけ。潤滑油というか。だからスピリチュアルにいく。
み そうそう。
那 人間ってばらばらではいられないから。
エ レイキってあるじゃないですか? あれを伝授したいという人がいたんです。カラオケに行って、テストで触らしてくださいって。手が震えてたんだけど。
ハ 怖い(笑)
エ 1ヶ月1万円で、10ヶ月の10万円で、と。だから、いいですって断った。人を治してきたというけど、証拠はない。言ってることはまともだけど、いいことばかり言うと怪しい。全部上から言うとか、啓示みたいな。何気なく話している中で名言が生まれればいいけど、名言を重ねる人。そういう人に会うとたいてい・・・
土 会うんですね(笑)
ハ ルールとか「すべき」とか、言っていることとやっていることが違う人が多い。そういう人ほど裏がある。
エ 那智さんの「悟り系で行こう」という本を読ませていただいて、いいなと。話を聞きたいと思いました。
那 最近、その手の話は全然してないけど。
み あの表紙も斬新で面白い。
那 業界とフィットしてなかったけど、何か変わった人が連絡してきてくれたから良かったかな、とか。
土 あれがスピリチュアル本みたいな表紙だったら、意外と埋もれていたかもしれない。
那 今、読み返すといろいろあるけど、わりと本気な人が来てくれたから、まぁ、あのタイミングでは間違ってなかったかな、とか、思います。
エ 鳥居みゆきさんに目をつけたのが面白かったです。
那 神がかっている時があったんです。自我を超えたところでやっている時期があった。そういう具体的表現を評価するというのは、今やっていることとつながっているのかな、と思います。
(現在のスピリチュアル業界談義が続く)


●無我表現は、2歩先
那 今のスピリチュアルビジネスの本筋は、対処療法なんです。病気があるとしたら、癒しますよということです。じゃあ、仏教って何かと言ったら、原因療法なんです。苦しみの源にあるものは何か、本当は苦しんでいるあなたはいないよ、ということです。苦しみの源を壊してなくしてしまう。すると苦しんでいる者に対する慈悲というものが生まれるんです。じゃあ、原発どうしようとかね。自分が引き寄せたいとか、幸運になりたいとか、癒されたいというのは対処療法。それは自我を癒してくれるかもしれない。死にそうな人とかもいるから、社会には必要なことなんです。精神病でもね、薬が必要な人もいる。死なれたら困るから。その時は癒される。でも、そこから先の道があって、それは厳しい道。原因療法。その救われたい自分とは何なのか?とか、なぜ愛されたいのか、なぜ引き寄せたいのか、幸せになりたい自分とは何なのかとか、自我の問題になってくる。孤独な戦いになってくるわけです。俺ってこんなに幸せになりたいとか、俺ってエゴだよなとか、卑屈だよなとか、たいしたことないよなって気づいていく。それを打ち壊して、捨てた時に、なくなった時に、見えるものがあって、流れ込んでくるものがある。最初にアートマンというものを想定して、自分が永遠の自己と一体とか、そういう風に思うことはやっぱり違うと思う。本当の宗教性というのは、そういうのは全部いらなくて、それが仏教的なものの見方。でも、それは上手く言えない。上手く言い過ぎることはできるかもしれないけれど、それはやってはいけない気がする。
一人で、自分で自分を見るというのが、最短・最速の道です。誰かにお金を払って教えて、ではなくて、自分の人生の中で、人間関係の中で見出していく。それは師匠とかもいらないし、邪魔になる。自分より大きな断片はない。断片が全体になった時に、オウムであれなんであれ、一人の人間を規定づけてしまう。クリシュナムルティだろうが誰だろうが、全部断片。自分の才能とか、そういうのも断片。じゃあ、何が残るだろうといったときに、慈悲がある。自分が幸せになるよりも、全体への慈悲と行為への欲求が生まれる。人間関係も変わってくる。ジグソーピースの組み合わせ方が。自分と言う断片が大きいわけではない。全体の一部にすぎないと気づいた時に、新しい関係を作るという形が見えてくる。そこからどういう形を作っていくかというのが無我表現。先の先なんです。対処療法を卒業して、原因療法的に人間に、自分にアプローチして、さらにそこから先の表現と社会との関わり方までいって、ようやく無我表現という土地に行く。だから2歩先なんです。でも、2歩先だと理解されないし、社会から受け入れられない。需要もない。本当は、半歩先でなくては表現と言うのはだめなんです。先走っている。でも、時代はそれくらいの速さで動いているから、まぁ、なんとか……
だからね、宮沢賢治の考え方になってくる。「世界人類が救われないうちは、自分の幸福はない」という法華経の考え方になっていく。その祈りがああいう作品になっている。
土 宮沢賢治の作品が。
那 自分が幸せになりたいという人ではない。法華経の問題点とかね、いろいろ言う人もいるかもしれないけど。
土 宮沢賢治くらいまでいかないと、なかなか無我表現って言い切れない。
那 トータルな作品としてはね。全体の中でここがいい、というのはあるけれど。
土 断片でしかないとわかっていても、依存してしまうこともある。
那 でも、アートマンがどうとか、対処療法とか、原因療法とか、無我表現とかいきなり言っても、理解してくれない。だから言わない。
最近、ゴーストの仕事でね、スピリチュアルの本どうですか?って言われることもある。今、本出したい人、多いんですよ。それでちょっと断ったんですよ。「なんで?」と聞かれるけど、上手く言えなくて。「こだわりがあるから逆に難しい」って答えた。それでも突っ込まれる。「なんで? そんなに悪い人じゃないよ」って。そうかもしれないけどさ、ただスピリチュアルな小説を書いてくれって言うの。でも、自分が今まで10年以上試行錯誤して培ってきて、ようやく形になってきたものをその人の世界観を肯定するために使うことはできない。
土 日本人ですか?
那 うん。ちゃんとした経歴もあるまともな人だって言うけど。それはさすがに断った。だから、難しいよね。そこでは単なる一ゴーストライターだから、偉そうなことは言えないし、現実世界ではここで言っているようなことはまず理解されない。だからより具体的な表現の中でそれを……


●罪悪感とお金の問題
ハ メルマガで那智さんがスピリチュアルな世界がインターネットビジネスの世界とつながってくるという話をしていて、その通りだなと感じます。
那 その通りです。もっとひどいものはいくらでもありますよ。でも、それはしようがない。
ハ しようがない?
那 もう変えられない。癒されたいし、夢見たいから。
み 世界に何もないと思ったらつまらないですものね? それをすごく思うんです。
ハ 自然とか、目に見えないもの、違った大事なものがあると思うんです。お金とか欲望系の方にいっちゃうと逆に救われないというか。
那 仕事でね、自己啓発とか、ビジネス書出している人とか、そういう人たちと付き合うこともあるんだけど、自分には向いてないのかなって。上手くやっているつもりでいたけれどね、仕事もくるし、俺、意外と社会人してるじゃんって。でも、そういう人たちと付き合って、飲んだりしているとやっぱり疲れてしまう時もあるし、一人で夜中に散歩とかしてる方が好きだし、合わないですよ。
み わかる。
那 だから自分の時間がなくなるほどに仕事はしたくないって公言してる。それじゃ、金儲けしたくないのかと聞かれることもあるんですよ。もちろん、印税契約をしたような仕事なら、一発、当たるようにがんばるのは当然ですよね。当たればうれしいし、皆も喜ぶ。でも、それを言うとね、「やっぱり金が欲しいんじゃん?」となぜか喜ばれる。こっちは、そういう意味で言ってるのじゃないんだけれど。
エ 力があっても、お金儲けに使うと神様にその力を取り上げられちゃう。
ハ あると思う。
那 罪悪感の問題だよね。スピリチュアルな世界でも自己欺瞞せずに、罪悪感がない範囲なら当然、お金は取っていいと思う。生活もあるわけだし。ただ、ぼくなんかは麻雀やってるから悪いことできない。罪悪感があると勝てないんです。自分の中に余分なものが残っていると運が来ない。反動が来ると思っているから。
み そうそう、罪悪感を持つと仕事で失敗する。
エ 私も占いで、お金をいくら取るかというのはすごい難しいんですけど、占っているとたまに病んでいる人がいるんですけど、ちょっとでもお金を取ると偽者だとか言われて。でも、元々提示しているから。
ハ 提示しているのにね?
エ 何でお金を取るんですか? とか言ってきて。
那 カウンセリングみたいなところもあるしね?
エ だから、おかしいです。大金取っているわけじゃないんです。30分で、3000円とか。
ハ まぁ、普通な感じですよね。
エ 後は絶対、100%当たるものでもないというか、きっかけになるものだから、後押しできればいいなという感じなんですけど。
那 エリナさんには何かある。最初からやばいものを感じてる(笑)間が面白いし。
み うん、すごく面白い。
エ 私、けっこうインパクトあるって言われることあるけれど、自分ではわからないです。
那 それでいいと思います(笑)