第30号編集会議 魔法少女まどか☆マギカ

「魔法少女まどか☆マギカ」に見る新たな神話

2013 11/13 in渋谷


★ 編集会議出席者

・那=那智タケシ(ライター・無我研代表)

・高=高橋ヒロヤス(弁護士・翻訳家)

・土=土橋ユキ(ライター)

・テ=ティモ(アルバイト)


●ディズニーランドの洗脳世界
土 今、情報過多で病んでますね。
那 情報遮断しないとさ。テレビも見ないし、ネットもあまり見なくなってしまった。フェイスブックも結局、登録だけしてやっていないし。いい言葉とか、すばらしい写真とかシェアしましょう、というのはわかるけれど、「いいね」って一人にやってらみんなにやらなくちゃいけないのかな、とか。滅多に見ないし。
高 そうそう、そういうのでノイローゼ的になる人もいる。依存しすぎちゃって。
テ そこまではないなぁ。
那 基本的にはポジティブなことを言い合うような世界だったから、何かリアルじゃないような。俺はまだミクシィで麻雀でいくら勝ったとか、負けたとか、ばか言っている方が合っているかな、とか。
土 大げさな話、全世界で見ていると思うと、ちょっとした悩み事もつぶやけないですよね。
高 プライベートと仕事の境もなくなっちゃうというか。
那 ところでティモ君は楽器屋でバイトしているということだけれど、話聞くと、労働条件とかいろいろたいへんみたいだね。
テ はい、10年働いても正社員になるのは難しいらしくて、給料も安いので転職も考えていて……
土 現代の若者の就労の状況が如実に出ている話ですよね。
那 周りのことは気にしないで、ビジョンがあったらそっちに向けてコツコツ積み上げた方がいいという話はしていたんですけれど。
テ やりたいバイトはあるのですが……
那 若いうちは面白そうだと思うことをやるのもいいよね。人に話すネタにもなるし。俺もディズニーランドで働いていた時はすごいネタになった。
高 ディズニーランドで働いていたの?
那 踊ってた。
高 ええっ!? 初めて聞いたな。
土 何役ですか?
那 パレードに出ていたの。学生時代。
土 普通の素人でもなれるんですか?
那 ダンサーの人はオーディションで入ってくるの。ミッキーとか白雪姫とかも。本当に踊れる人。でも、張りぼてみたいの入っていたり、背が高いの知ってます? 竹馬みたいの乗ってるの。
高 はいはい。
那 スティルトって言うんだけど、ああいうのって、一般の人なの。子会社に行って。そこでも顔出し大丈夫ですか、とか、高い所大丈夫ですか、とか面接はあるのだけれど、当時はみんなで一ヶ月トレーニングして、竹馬みたいの乗れるようになったり、ディズニーの歴史の映画をみんなで見て軽く洗脳されたり(笑)、笑う訓練してディズニースマイルも作れるようになって。歌って踊って、サンバも踏めてようやく出れる。
土 すごい(笑)
那 なぜ自分がそこにいたか全然わからない。そういうキャラでは全然なかった(笑)
高 なぜ?(笑)
那 時給がめちゃくちゃ良かった。実労45分で5500円もらってた。パレードが45分だったから。デイパレード。夕方から学校行っていたから、3時間拘束で5500円もらえるのはでかかった。待ち時間がほとんどだし。着付けとかは1時間くらい。45分歌って踊って回ってくればお金がもらえた。家も近かったし。
高 ああ、近いんですね。でも、そういうことやってたの全然知らなかった。
那 学生時代だと、俺、今日踊って来たから、とか言うとうけるし。
土 (笑)
那 でも、プロの集団というのは本当にすごいな、というのはわかった。ゲストに向けての見せ方というのが徹底している。ミッキーに誰が入っているかはかん口令が敷かれていたりね。キャストが休む建物なんかは絶対に見えないように作られている。あの集団のプロ魂は半端ないですよ。夢を与える空間を一切壊さないようにしている。勉強になる。テレビや演劇を見ていても、裏ではこれだけのことをしているのかな、とかね。見る目が変ってくる。
土 ある意味、ディズニーランド、怖いですよね。
那 バイト仲間には不良みたいのもいっぱいいたけれど、最初はばかにしていたのが、みんなディズニーグッズを使うようになる。その洗脳具合?(笑)あまり馴染めなくて1年で辞めたけど。普通、2年で卒業するんです。
土 子供が行きたいというけど、連れて行っていない。
高 自分も1回も行ったことないです。遠いし。行くんだったら気合入れて泊りがけで行くけど。
土 あそこに泊まるとまた高いんですよね。
那 パレード出発する前にね、「今日の来場者は1万5000人です、フジテレビも入っています、はりきっていきましょう」なんてアナウンスが流れるんです。ゴルバチョフ大統領の前で踊ったこともあります。みんないつもよりすごい踊ってた(笑)
一同(笑)
高 でも、そういうプロの集団で働くことはいろいろ勉強になりますよね。


●ダークマターが可視化する?
那 最近、自分の中でヒットしているもの、あるんですか?
高 最近、高校時代の友人から20年ぶりぐらいに連絡があって、何だろう、離婚の相談かな、と思って聞いたら、何かすごいものを発見したと。彼は理系で、僕の高校でも成績が異常なくらいいい人で、偏差値80くらい。京大の医学部に行ったんだけど、理3でも余裕でいけるくらい。伝説的な人なんです。ぼくは文系だったんだけれど、お互い仲が良くて、それで頭の構造が普通じゃないんです。特異感覚というか、在学中から伝説的な人だったんですが、その人が医者になって、最初、京大の病院で心臓外科をやっていて、それが何か知らないけれど、眼科を開業して、それで年賀状だけやり取りしていたんだけれど、いきなり連絡があって、何かすごいものを発見したと言うんですよ。何かよくわからないホームページがあって論文も送ってくれたんだけれど、読んでもよくわからない。
土 怪しい?
高 彼の言うところだと、科学で言われているダークマター? そういうものが可視化できるうようになっていると。そういう現象が今、起きていると。
那 現象?
高 と言うかね、ぼくもよくわからなんいんだよ。
土 高橋さんがわからないんじゃ……
高 わからないんだけど、ある人がいて、その人の周りでね、ある者が見える。その人は自分でも見えるし、その人を見た人もその周りに何か見える、と。それをどんどん解析していくと、よくわからないけれど、彼が言うにはダークマターが可視化されたものじゃないか、と。ぼくもわかっていないから説明がよくできない。
那 何かもう十分に怪しいよね。
高 彼が言うには、これで何かね、素粒子のこととか、超ヒモ理論とか、量子力学の謎がすべてわかる、と。なぜかぼくはよくわからないよ。今度、それについての本も出すし。
土 出すんですか?
高 彼、それについての研究所も作っちゃって、研究所の所長を今、やっているというんだけど。何か聞いていると、ダークマターがどうとか、素粒子がどうとか言っているから、潜態論と何か関係なくはないかな、と思って。小田切博士の潜態論と言うのがあってって言って、MUGAの連載を見せたんですよ。そしたら彼はすごい難しいねって言って(笑)
那 何か近いものがあるのかね。潜態という概念とダークマターというものが。
高 そうそう。彼によるとタイムワープが可能になるとか。
テ タイムワープ?
那 タイムワープまでいくとね?
高 そう、ちょっととんでも系の匂いがするけど、頭の構造が違うから。
那 ニュートリノの実験しにしても、タイムワープが可能になるとか言っているけれど、本当かな、とか。
高 うん。ただ、彼が言いたいのは、ものというのは見るから存在すると言うじゃないですか? 認識するから存在すると。だから客観的にものというのがあるのじゃなくて、突き詰めていくと、見ることでこれが生まれるんだと。だから意識というのはそういうものを創造できる。実際、ここから大阪に新幹線で行く時に、実際に動いているのではなくて、意識が周りの現実を創造しているだけだから、その原理を応用していくと、ここにいながらにして、ボタンを押すと大阪にいる。
那 それって唯心論というか、独我論というか、決して新しいものではないよね? ただそれを科学的に証明できるという話をしたいわけでしょ? 正直、ちょっと怪しいよな。
高 そうそう。生かじりだから彼の言いたいこととは違うことを言っているのかもしれないけれど。
那 心と現象がリンクしているというのは実感としてわかるけれど。
土 でも、地上の制約がありますからね、時間とか空間とか。その中で生きているということなので、どうなのでしょうね? 死の世界とか?
高 だから高次元の世界だから時間も空間もないと。
那 スピリチュアル系ではね、この世界はあなたが創造しているから、あなたが幸福な生活をイメージすれば幸福がやって来るという話になっているけれど。
高 とにかく、一回、研究所に来てくれと言うんですよ。東京にあるなら行くけど、大阪だから。
那 いや、大丈夫ですよ。ボタンを押せば(笑)
高 それはまだできない(笑)
土 まだできない(笑)
高 それを科学的に誰もが理解できる形で説明できた人は今までいないはずだから、それができるというのならすごいことだから、がんばってって。


●世界を救うのはフリーエネルギーではない
土 でも、あるんでしょうね、そういうようなことが。スピリチュアルが言うそういうのもたぶん、あるっちゃあるみたいな。一つの側面から言うと。
高 それこそ、量子力学の素粒子の世界って、観察者と観察される物は別ではないって世界なんでしょ?
那 つまり、関係性から独立した存在というのはこの世にはないってことね。
高 そうそう。
那 見ただけで関係しちゃう。素粒子レベルで揺れちゃう。
高 要するに、自我はない。
那 だから、特定の、個別の何かはもうないわけだら。仏教の縁起の話になるけれど、ひとしなみってことになる。それを可視化する以前の状態を潜態と言ったりとか。
高 そうそう。
那 ある種のエーテル的なエネルギー。
高 ダークマターの話になる。
那 それを宗教的な修行でエネルギーを感じたり、病を治したりというのは、いろんな人がやっていて、自分も少しだけかじっているけれど、それを科学的に・・・
高 そうそう、それを普遍的に説明できるのなら、すごいな、じゃあ、がんばってと。
土 でも、それだけの頭脳の人がやっていると。
テ 信用できる気がしてしまいます。
高 彼は頭がいいことは確かなんだけれど、本質的にどうなんだ、というとわからないけれど。
那 それってさ、フリーエネルギーの本なんかもいっぱい出ているけれど、それができるんだ、という人がいて、こういう理論で世界が変わっちゃうんだ、という人がうじゃうじゃいる。
高 うじゃうじゃいる。
那 でも、実際は陰謀論とか、石油の利権がらみで消されちゃうとか言っているけれど、やっぱり、その方法ってだめなんだって、俺なんかは思う。何かが間違っている。この発明で世界が救われるとか、変わるとか、真実が証明されちゃうという人はいっぱいいて、そういう本もいっぱい出てるけれど、何一つ変わらない。まぁ、夢中になるのはわかるけれど、方向性としてそれって夢中になるのはわかるけれど、王道じゃないんじゃないかな、というのが肌感覚としてある。
高 うん。
那 だって、そういうのに夢中になっている人って、これこそ世界を救うって言っちゃう。麻が世界を救うって人もいる。
高 いるね。
那 顔つきが危なくなっちゃう。一つの物質が救う、理論が救うと言った時に、それって人間をゆがめてしまう。
高 そうなんだよな。


●「魔法少女まどか☆マギカ」に見る新たな神話
那 世界を変えるのは特定の物質とか理論ではなくて、新しい構造の提出だと思うんです。新しい神話世界をみんな求めている。例えば、最近、ぼくがヒットしたのは、「魔法少女まどか☆マギカ」ってやつなんです。知ってます?
高 知らないんだけど、名前は知ってる。
那 それをある人に、騙されたと思って見てみろと。萌え系の絵柄だったので、「一番嫌いなやつ」と言ったのね。そしたらいいから見てみろ、と。そしたら新しい世界観があった。アニメで言えば、ガンダムからエヴァンゲリオンに続く、何か新しい構造があった。そこにはね、今、求めている神話があった。こういうものが、こんなものが世界を変えてしまうのかもしれない、と思った。
高 へぇー。
那 どこか初音ミクという存在に近いかもしれない。それを物語世界で、魔法少女と魔女という構図で表現している。今、新編が映画でやっていて、それはよくわからないところもあったけれど、アニメの総集編的な「始まりの物語」と「永遠の物語」というのを見て、久々にきたな、と。
高 へぇー、そうなんだ。
那 だから、トータルに構造し直すという作業が求められていて、有機的にそれをやれたら。それが最初はアニメでも何でもよくて、今日、本屋に行ったら「宇宙が2つあった」みたいな本が売れていたり、みんなこの世界の新しい構造を求めている気がします。スピリチュアル系の人もそう。ああ、世界ってこうなっているんですね、と知りたい。安心したい。みんな足場がさ、崩れてる。この世界って何なのかわからないから、不安なんだね。原発事故とかで信じていたものが崩れて、むき出しになってしまったから、何を信じていいかわからないという時に、新しい構造物、新しい神話を求めている。宗教の神話ももう終わりかけているしね。ジョセフ・キャンベルではないけれど「生きるよすがとしての神話」が必要とされている。そこから派生した芸術なり科学なり、社会のネットワークなりというのが世界を変えてゆく起点となる。一人のカリスマではなくてね。
量子力学というのがなぜこれほどまでに一般の人の興味を引いたかといえば、世界の構造それ自体に言及しているからでしょ? 見るものが見られるものである、という。実験室を越えて、世界観になった。だからみんな興味を持った。アートとか生活すべてにつながる価値観。だから特定の論理が世界を救うではなくて、やっぱり、新しい構造から生まれた表現を求めている。でも、それは一番難しい。神話というのはトータルなものだから。一切の矛盾を包括した、それでいて倒れない建物を作らなければならない。
高 そこからね、新たな体系がをるということになるかもしれないけれど。
那 モデルケースとして最初にアートがある。フリーエネルギーが発見されたから、飢餓もなくなるし世界も救われちゃいますよ、という人がいる。仮に、そういうエネルギーがあっても世界は救われないし、使えない。結局、それをどう独占するかということにしかならないでしょ? 今の資本主義世界の価値観では。
高 知り合いのSF作家が「魔法少女まどか☆マギカ」のすごい分厚い評論本出しているんですよ。ウスペンスキーとか引用しながら。
テ へぇー。
高 なんで関係あるの?と思っていた。
那 見ればわかるけれど、どうとでも解釈できるの。宗教的にも。キリスト教的な考え方もあり、仏教的な考え方もあり、感情移入できるストーリーもあり。
高 借りて来ようかな。
那 実は、昨日、新作の映画を見て来たんだけど、俺の中では・・・
高 違うの?
那 観念的になりすぎちゃっているなってところがあって。
高 作り手が?
那 そうそう。でも、それを言ったら紹介してくれた人が怒っちゃって。
高 何で怒るの?
那 要はさ、その人にとってはものすごい大事な作品だったわけで、評論家的に何か言われるのが嫌なのね。
高 テレビアニメ版を見た方がいいわけ?
那 テレビアニメ版は見ていないけれど、前編後編の劇場版だけ見ればだいたいわかる。
土 DVDになっているわけですね?
高 それが前編?
那 違う、前編後編はもう出てて、今やっているのは新編。
高 子供と一緒に見に行こうかな?
那 子供向けじゃないからやめた方がいい。子供がトラウマになるシーンがあるから。
高 トラウマになる? 大人が見に行っているわけだ。
那 だから、まずは劇場版だけ見てもらえればいいかも。魔法少女とか、普段はちょっと言いづらいけどね。
高 今、うちの中学生の息子が初音ミクに夢中になっていて困っているんですよ。
那 高橋さんの夢中になる遺伝子が受け継がれている(笑) 初音ミクこそ無我研で取り上げるべき対象かもしれないけどね。
高 自我がない。人間には出せない表現がある。勝手にクリエイターが自分で動画作って百万部売れたとか。
那 自分のイメージがダイレクトに表現できる。
土 富田さんを使うくらいですからね。
那 イートハーブ? ぼくの世界観の中には正直、まだいないんだけど、何かあるのはすごいわかる。
土 うんうん。
高 それをもう少し若い人に解き明かして欲しいですね。やっぱり同時代的なものをもっと取り上げていきたい。あまちゃんとか、まどかマギカとか。
那 この間、ブレッソンの「白夜」という映画を見たけど、すごい映画だけど興味ない人がほとんどだから……映像表現としては究極だと思うけれど、普遍性が今の日本であるかと言ったらさ。孤高の作家。
高 白夜ってドストエフスキー?
那 それをベースにしているけれど、原作はエモーショナルだけれど、この人は神の視点。クールに突き放して撮る。感情表現を抑えるだけ抑えて物みたいに人間を撮る。このカップと人間を同じように撮る。だから俳優のことは「モデル」と呼んで素人を使うわけ。人間の感情も全部ものと同じように撮る。だからドラマというものを否定している。ドストエフスキーの原作に挑戦してまったく負けていないすさまじい作家。世界最高という人もいけれど、これを今更やっても、自己満足になってしまうかもしれないからね。
土 ティモ君は「まどか☆マギカ」知ってる?
テ 自分は全然興味がなかったんですけど、今、那智さんの話を聞いて見てみようかな、と。
那 新しいものというは熱気があるよね。今、俺たちは新しいことをやっているぞって。作り手の熱気を感じた。
テ いつ頃テレビアニメはやっていたんですか?
那 2011年。震災で一旦中段してる。でも、震災後に見るとこのアニメは意味がある、というくらいの内容になっている。
土 古いのばかりではなくて、そういうものをもっと積極的に紹介できればいいですね。私も、来年からテーマを少し考えてみます。